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9－１．相続分の譲渡ー相続分譲渡の概要
（１）相続開始前の譲渡
相続とは、相続財産に占める、各相続人が受け取ることのできる割合です。
ここでは、この相続分を相続人ではない第三者に譲渡することの可否を説明
します。
まず、相続開始前（被相続人の死亡前）には、相続人はその相続分を譲渡
することはできません。
これは、たとえ可能性は高くとも、被相続人の死亡前は相続人はいまだ相
続分を有するとは言えず、単に相続財産を得ることへの「期待権」があるに
過ぎないからです。
（２）相続開始後の譲渡
これとは反対に、相続開始後であればたとえ遺産分割協議前であっても、
相続人は相続分を譲渡することを民法が認めています。これは、被相続人の
死亡と同時に相続は開始されて相続財産は共同相続人の共有財産となるので、
その共有権として譲渡できるからです。
たしかに、まだ相続人間で遺産分割もしないうちに相続分を譲渡せずとも、
遺産分割手続が終わるまで待てばいいようにも思えます。しかし、遺産分割
協議がまとまるまでには時間がかかることもあるため、相続人の中には早く
相続財産を換金したいと考える方もいます。
そうした場合に、相続人が自分の相続分を包括的に第三者に譲渡し、現金
等を得ることができるかわりに、遺産分割手続から抜けることができること
になります。
そして、相続人から相続分の譲渡を受けた第三者は、その相続人が有して
いた一切の権利義務を包括的に承継したわけですから、当然のこととして、
遺産分割協議に参加することができるのです。
（３）他の相続人による相続分取戻権
このように、相続開始後であれば、いつでも相続人は自己の有する相続分
を第三者に譲渡できます。
しかし、そうすると他の相続人は、場合によっては縁もゆかりもない他人
と遺産分割協議をしなければならないことになり、遺産分割がスムーズにい
かなくなるおそれがあります。
そのため、このように相続人の一部の者が遺産分割前にその相続分を第三
者に譲渡した時は、他の相続人はその譲渡価額及び費用を返して、その相続
分を譲り受けることができます。これが相続分取戻権という制度です。
この相続分取戻権はあくまでも相続人の権利ですので、その行使は相続人
が相続分の譲受人に権利行使の通知をするだけで足り、譲受人がこれを承諾
する必要はありません。
ただし、相続分取戻権の行使には期間の制限があり、一部の相続人が第三
者に相続分を譲渡してから1ヶ月以内に行使しなければなりません。その期
間を過ぎると、たとえ相続分が譲渡された事実を他の相続人が知らなかった
場合でも、もはや相続分の譲渡はできません。
この場合には、譲渡を受けた第三者が任意にその相続分を売却してくれる
のを期待するか、またはその第三者を遺産分割協議に参加させるしかありま
せんので、ご注意ください。
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